初めて体験したフランスのメーデー:レンヌで見たデモの現場

フランスのメーデー フランス滞在記
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長年フランス社会を研究しているものの、じつはこれまでデモをこの目で見る機会はありませんでした。論文や報道で幾度となく触れてきたものの、やはり現場を知らずして語るべきではない。そんな思いが湧き上がり、今年のメーデー(Fête du Travail)、レンヌの街中で行われるデモに参加することにしました。

メーデーは交通も止まる日

とはいえ、メーデーはフランス全国的に交通機関が止まるのが恒例。レンヌも例外ではなく、バスも地下鉄も運休。仕方なく、駅前に設置されたレンタサイクルを借りて広場へと向かいました。道中ふと思い出したのは、初めてのフランス留学時代、自転車で郊外から通っていた日々。いくら歳を重ねても、やっていることは案外変わらないものだなと、思わず笑ってしまいました。

スタート前での出会い

時間に間に合うか少し心配していたところ、警察官の集団をみて、このあたりが会場だろうと安堵しました。広場に到着したのは10時半前。ギリギリ間に合ったと思いきや、まだ人影はまばら。「そうか、ここはフランスか」。時間通りに始まらないのもまた、フランスらしさです。

その分、開始前に現場をじっくり観察することができました。労働組合のビラを配っていたマダムに話を聞いたり、逆に地元局のジャーナリストに「なぜこのデモに参加したのか」とインタビューされたりと、意外な交流もありました。

声を合わせる人々 —— 多様な「顔」と「旗」

やがて行進がスタート。老若男女が混じり合い、CGT(フランス労働総同盟)やFO(Force Ouvrière)の赤いベストを来た組合員はもちろん、ベビーカーを押す若い家族、学生と思しき若者たち、年金暮らしの高齢者たちが、それぞれの思いを掲げて歩き出しました。まさに「市民社会」のリアルな息遣いに触れた瞬間でした。

とりわけ印象的だったのは、学生と思われる若者たち。彼らは音楽に合わせてリズムを取りながら、楽しむように、しかし真剣にメッセージを発信していました。堂々と自らの言葉で声を上げるその姿に、頼もしさと同時に、うらやましさすら感じました。

今回は、ざっと確認できただけでも、CGT(五大労組のひとつ)、FO(同じく五大労組のひとつ)、FSU(教育部門最大の労組)、Solidaires(非正規労働者も多くいる労組)といったフランスを代表する複数の労働組合がそろって参加していました。

伝統的な労働組合を象徴する赤い旗、環境政党を示す緑の旗、LGBTQ+の権利を象徴する虹色の旗など、会場にはさまざまな色と立場を示す旗がはためいていました。さらに、掲げられた横断幕やプラカードからは、賃金の引き上げ、年金制度の維持、公共サービスの保護、移民の権利、反戦・国際連帯、環境正義、反差別など、デモに込められた多様な要求や主張が見て取れました。

  • La République toujours – Les revendications tout de suite !(共和国よいつまでも —— 要求は今すぐに!)”
  • “Salaires, services publics, retraites : même combat !(賃金、公共サービス、年金——共闘しよう!)
  • Paysans, salarié(e)s, même combat(農民も労働者も、闘いは同じ)”
  • “Boycott Israël / Solidarité avec la Palestine(イスラエルをボイコット/パレスチナと連帯)”
  • Non à la réforme des retraites(年金改革に反対!)”
  • Travailleurs avec ou sans papiers, mêmes droits !(滞在許可の有無にかかわらず、労働者には同じ権利を!)”
  • Pas de justice sociale sans écologie !(環境なしに社会正義はない!)

これらの多彩な主張が同じ空間に響き合うのが、フランスのデモの醍醐味です。労働者の権利にとどまらず、移民・人種・ジェンダー・環境・国際連帯など、複数の問題が1つの場に集積されているという印象を強く受けました。

終わりに —— 「知っていたつもり」からの一歩

本を読んだだけでは気づかなかったこと、実際に歩き、見て、聞いて、話すことで初めて実感したこと。フランスのデモは、たしかに「抗議の場」ですが、それ以上に「社会への参加の場」、「社会との対話の場」であるように感じました。

そして、デモに参加していた一人のマダムの言葉が、今も心に残っています。

« Ce n’est pas une question de colère, c’est une question de dignité. »

「これは怒りの問題ではなく、尊厳の問題なんです」

フランス社会にとって、デモは生きた文化であり、市民が自らの尊厳を確認し合う場でもあるのだと、あらためて思わされた一日でした。